ウィーン【1Q18 ハプスブルク家の金字塔】
5月14日
本日の予定
- 美術史美術館
- ベルヴェデーレ宮殿
- レオポルト美術館
プラハ本駅から列車でぶっ飛ばしてウィーン中央駅に到着。
ウィーン中央駅は伝統的な建築の駅と思いきや、近代的で巨大な都市型の駅だった。
地下鉄もきれい!
色を3色に抑えるのはオシャレの基本だ。
Museum Squarier駅で下車して、美術史美術館に向かう。
ハプスブルク家お膝元の美術館だけあってどことなく威厳を感じる。
あの銅像の頂点に君臨しているのがマリア・テレジアだ。
ゴゴゴゴゴゴ……
ゴゴゴゴゴゴ……
入る前から普通の美術館とは違う雰囲気をひしひしと感じる。
開門!
宮殿のように非常に豪奢な内装だ。
ハプスブルク家の威光にこれでもかというぐらい圧倒される。
カフェもとても豪華で「世界で最も美しいカフェ」と言われている。
もしここにコンビニがあれば「世界で最も美しいコンビニ」と言われるに違いない。
あらゆるものが豪華過ぎて美術館にいることを忘れてしまいそうだ。
まずは絵画から鑑賞する。
壁一面に絵画が展示されている。
随所に座り心地の良いソファが配置されているため、ゆっくりと絵画を鑑賞することができる。
美術史美術館で展示されている絵画はフェルメール、ルーベンス、カラヴァッジョ、ベラスケスなど15世紀〜18世紀頃の作品が展示されている。
中でもブリューゲルのコレクションは最大規模で「バベルの塔」もここで鑑賞することができる。
絵画も十分見ごたえがあるが、調度品のコレクションも同じぐらい素晴らしかった。
この大皿をアップで見ると作り込みの細かさに驚嘆する。
黄金の食器棚。
脚部の像が楽しげにダンスをしているのが可愛らしい。
当時非常に貴重だったガラスの作品。
幌の絵画まで手を抜かない徹底ぶりには驚く。
チェッリーニの「サリエラ」
これはなんと食卓用の塩入れになっている。
ハイテク過ぎてどうやって塩を振るのかも、どこから塩を詰め替えるのかも全く見当がつかない。
角などの天然の素材を使った作品も多く展示されていた。
白く輝く部分をよく見ると貝殻が埋め込まれている。
ウィーンには海がないため貝やサンゴは貴重品として扱われていた。
貝殻は壊れやすいため製作には細心の注意を要する。
この壺には無数のガチャピンが浮き上がっている。
こんな指輪で殴られたらむしろ自慢するに違いない。
象牙のコレクションも素晴らしい。
フラクタル幾何学的な装飾が緻密で無心になって見入ってしまう。
これは「プロセルピナの略奪」だ。
「プロセルピナの略奪」はローマのボルゲーゼ美術館にあるベルニーニの作品も有名だが、これを象牙で作るとは驚きだ。
よし、今や逃げたれ!
誰かつかまえてーーー!!
ギャース!!
びっくりするがな…ズルッ
美術史美術館は他にも古代エジプトコレクションや古代ギリシャ・ローマコレクション、コインコレクションがあり全部じっくり見るだけでも3、4時間はかかるだろう。
ハイレベルなコレクションにあらためてハプスブルク家の底力を見せつけられた思いがした。
次にベルヴェデーレ宮殿に向かう。
ベルヴェデーレ宮殿は帝国軍総司令官オイゲン公の「夏の離宮」だが、敷地内に庭園や動物園などがある広大な別荘だ。
宮殿は上宮(迎賓館)と下宮(住居)があり、現在はいずれも美術館になっているがクリムトなどの有名作品は上宮に展示されている。
ただいま!
正門の脇から入る。
この日は風が強かったので波立っているが、穏やかな日は鏡面のように宮殿がきれいに映り込むという。
上宮に入る。
帝国軍総司令官とはいえ、一代でこれほどまでの宮殿を建てるというのはスゴい。
宮殿内は写真撮影できる場所が限られていて、クリムトの「接吻」も撮影禁止だった。
「接吻」の写真が撮れなくて残念だったが、180×180cmの大きなキャンパスいっぱいに広がる煌びやかな色彩は「絵画の宝石」と言われるにふさわしい輝きを放っていた。
宮殿の窓を覗くと庭園が眼下に広がっていた。
緑の絵筆で描いたような美しい庭園だ。
遠くに下宮と一番背の高いシュテファン寺院が見える。
ベルヴェデーレとは「美しい眺め」という意味だが、その名の通りここからウィーン市街を一望することができる。
この美術館で最も強烈なインパクトを受けた彫刻がある。
僕はここで初めてメッサーシュミットという彫刻家を知ったのだが、とにかく彼の作品を見て度肝を抜かれた。
こんなん絶対笑ろてまうやん。
これで白目むいてたら確信犯やで。
ネットでメッサーシュミットと調べると変顔の作品がゴロゴロ出てきた。
んならぁあーーーー!!
ひゅぅぅーーーーーーー…
んんん〜〜〜〜〜〜…
パッ!
彼はどこまで本気なのかわからないが、強烈なインパクトがあるのは確かだ。
なぜメッサーシュミットが有名にならないのか不思議なぐらいだ。
次にレオポルト美術館に向かう。
レオポルト美術館は近代美術館が集まるミュージアム・クオーター(MQ)という広場の中で最も人気の美術館で、おもにクリムトとエゴン・シーレの作品が展示されている。
まずはクリムトの絵画から鑑賞する。
彼の絵にはどこか官能的で妖艶な魅力が漂っている。
これは代表作のひとつである「死と生」だ。
老若男女が幸福に包まれてまどろんでいる様子を死神が見つめている。
僕はこの絵の魅力に引き込まれ、しばらく見入ってしまった。
「生」と「死」は分離されるものではなく表裏一体であり、メビウスの輪のように同一の道を歩んでいるに過ぎず、生まれた瞬間から死に向かって歩いているのだということなのだろうか。
あるいは、幸福な瞬間は永遠に続くように感じるが、同時にそれは頂点を暗示しそれを通過した瞬間から凋落が始まることを「メメント・モリ(死を忘れるな)」という含意を込めて警告しているのだろうか。
いろいろ考えさせられる絵だ。
次にエゴン・シーレを鑑賞する。
エゴン・シーレは28歳で夭折した早熟の天才で、彼はクリムトに師事していた。
この顔の角度からわかるように彼はかなりのナルシストでクリムトとは対照的に自画像が多い。
彼の絵はとても退廃的で反社会的なものが多いが、オーストリア・ハンガリー帝国の衰退期における当時の空気を反映しているように思う。
既存の価値観が崩れていく混沌とした時代の中で、彼は「自画像」を描くことで自分の内面を掘り起こし、新しい時代の答えを見つけ出そうとしていたのかも知れない。
奇しくもクリムトとエゴン・シーレがこの世を去った1918年という年に、約650年間に渡って中欧を支配していたハプスブルク家の帝国であるオーストリア・ハンガリー帝国も崩壊した。
ろうそくの炎は消える瞬間に最も激しく燃えるように、この2人の存在はひとつの時代を象徴しているように思う。
ハプスブルク家なきあと「扇の要」を失った中欧諸国はバラバラに四散し混迷を極めた。
ウィーンという街はハプスブルク家の栄光を讃えるだけでなく、多民族国家の成功モデルのひとつとしても今後も象徴的な意味を持ち続けるだろう。
今年はウィーンの歴史の節目である1918年からちょうど100年目を迎えるが、今もなおその金字塔の輝きは失われてはいない。